算数が苦手になる前に。そろばんで育てる「数が見える」

算数が苦手になるきっかけは、いつも大きなつまずきとは限りません。年中さんや小学校低学年のころに、「数が増える」「十のまとまりになる」「一の位から十の位へ移る」という感覚がぼんやりしたまま進むと、あとから計算手順だけを覚える学びになりやすくなります。

そろばん学習で大切なのは、答えを早く出すことだけではありません。数を珠の位置として見て、指で動かし、頭の中でもう一度動かす。そのくり返しが、数字を「見えるもの」として扱う練習になります。これは、右脳だけが働くという単純な話ではなく、目で見る力、空間的に覚える力、言葉で確かめる力が協力する学びです。

家庭で算数に取り組む子どもの手元

数をイメージできると、計算の意味が残りやすい

たとえば、7+8を「15」と暗記するだけなら、忘れたときに手が止まります。けれど、7に3を足して10を作り、残り5で15になると見えている子は、別の問題でも考え直せます。そろばんでは、この10のまとまりを珠の動きとして体験します。手で動かした経験が、あとから頭の中の映像として残りやすくなるのです。

メンタルアバカスの研究では、そろばん暗算は頭の中に珠の配置を保ちながら動かす技能として説明されています。小学生を対象にした研究でも、視空間ワーキングメモリとの関係が報告されています。ただし、「そろばんをすれば必ず何でも伸びる」という意味ではありません。数を空間的に扱う練習が、計算を理解する支えになり得る、という見方が自然です。

幼児期は、正解よりも量の感覚を育てる時期

年中から年長の子にとって、数字はまだ抽象的です。5という記号を見ても、どのくらいの量なのか、10とどう違うのかは経験の中で育ちます。そろばんのよいところは、量が目の前に現れることです。珠を一つ動かすと一つ増える。五珠を使うと見た目が変わる。十の位へ移ると場所が変わる。こうした変化は、小さな子にも感じ取りやすいものです。

紙に書きながら考える子どもの手元

家庭で見るなら、答えの速さより「どこを見て考えたか」を聞いてみてください。「今、何のまとまりを作った?」「十になったところはどこ?」という声かけは、子どもが自分の考えを振り返る助けになります。間違えたときも、「どこで珠が動きすぎたかな」と戻れると、失敗がただの減点ではなく、考え方を整える時間になります。

右脳学習を、あおりではなく土台づくりとして見る

右脳を鍛えるという言葉は魅力的ですが、子どもを急がせる言葉にしないことが大切です。そろばんばんが大切にしたいのは、子どもが数を怖がらず、目で見て、手で触れて、頭の中で試せる状態を作ることです。算数は積み上げの教科です。早い段階で「数は動かせる」「考え直せる」という感覚があると、学年が上がっても落ち着いて取り組みやすくなります。

友だちと机に向かって学ぶ子どもたち

そろばんは、特別な才能を見つけるためだけのものではありません。毎回の小さな練習で、見て、考えて、直す経験を積む道具です。幼稚園年中から小学校低学年の時期にこそ、点数よりも「数が見える楽しさ」を育ててあげたいですね。

参考にした資料