右脳を「使う」ってどういうこと?そろばんで育つイメージ力と集中の土台

「計算はできるけれど、文章題になると手が止まる」「くり上がりを何度も間違えて、だんだん算数が苦手になってきた」。年中さんから小学生のお子さんを見ていると、数字の理解は単なる暗記だけではないと感じる場面があります。

そろばんでよく言われる「右脳を鍛える」という言葉も、本当は少し丁寧に見る必要があります。右脳だけが特別に働く、という単純な話ではありません。けれど、数を珠の位置として見て、頭の中で動かし、答えを組み立てるそろばん学習には、目でとらえる力、空間的に覚える力、集中して手順を追う力を育てる要素があります。

「右脳学習」は、数をイメージで扱う学び

一般に右脳は空間認識やイメージ処理と関係が深いと言われます。ただし、子どもが「右脳型」「左脳型」に分かれるわけではありません。脳は左右が協力しながら働いています。そろばんで大切なのは、数字をただ記号として読むだけでなく、「珠がどこにあるか」「どの位が動いたか」をイメージしながら考えることです。

たとえば、48+27を筆算だけで処理すると、子どもは数字と手順を言葉で追いかけがちです。そろばんでは、10のまとまり、5のまとまり、1のまとまりを珠の動きとして見ます。慣れてくると、実物のそろばんがなくても、頭の中に珠の配置を思い浮かべて計算します。この「目に見えないそろばんを動かす」練習が、イメージ力を使った学びにつながります。

研究で見えている、そろばん暗算とワーキングメモリの関係

そろばん学習を考えるとき、参考になるキーワードが「視空間ワーキングメモリ」です。これは、見た位置や形、動きを短い時間だけ頭に置き、必要に応じて操作する力です。算数で言えば、くり上がりを覚えながら次の位を処理したり、図形や数直線を頭の中で動かしたりするときに関係します。

2016年に発表された小学生204名を対象にしたランダム化比較試験では、5〜7歳から3年間、メンタルアバカスの指導を受けた児童が、標準的な算数指導のみの児童よりも算数課題で良い結果を示しました。一方で、基本的な認知能力そのものが大きく変わったというより、もともとの空間ワーキングメモリの強さが学習成果に関係していたと報告されています。

別の研究では、小学校入学時から5年間、週2時間のそろばん暗算トレーニングを受けた児童群が、計算課題と視空間ワーキングメモリ課題で対照群を上回りました。ただし、知能検査の点数に明確な差は見られなかったため、「そろばんをすれば何でも伸びる」と言うのではなく、「数を空間的に扱う練習が、計算と視空間的な記憶の使い方を支える可能性がある」と見るのが自然です。

つまり、そろばんの良さは魔法のような効果ではありません。珠を見る、指で動かす、声に出す、頭の中で再現する。この積み重ねが、子どもにとって算数を「見えるもの」「動かせるもの」に変えていきます。

算数への自信は、早い時期の小さな成功から育つ

OECDのPISA 2022でも、数学への不安と自信の関係が取り上げられています。数学に不安が強い子ほど、わからないときに質問しにくくなったり、学びに前向きになりにくかったりする傾向が示されています。これは中高生の国際調査ですが、年中さんや小学生の時期にも通じる視点です。

子どもが算数を苦手に感じるきっかけは、大きな失敗だけではありません。「また間違えた」「自分だけ遅い」「何をしているのかわからない」という小さな経験の積み重ねです。反対に、「珠を動かしたら答えが見えた」「前より速くできた」「先生に見てもらって直せた」という経験は、算数への距離を少しずつ縮めます。

そろばん教室で育つのは、計算スピードだけではありません。手順を守る、集中を切らさずに見る、間違いに気づいて戻る、できたところを自分で確認する。こうした学び方そのものが、学校の算数にもつながっていきます。

年齢別に見る、そろばんで育てたい力

年中〜年長では、まず「数は楽しい」「触るとわかる」という感覚が大切です。正解の速さよりも、珠を動かして数が増えたり減ったりすることを楽しむ時期です。手先を使いながら数えることで、数字がただの記号ではなく、量として感じやすくなります。

小学校低学年では、位取り、くり上がり、くり下がりの理解が大きな山になります。そろばんは、十の位・一の位を目で分けて扱えるため、「なぜそうなるのか」を見ながら学べます。ここで自信がつくと、学校の計算練習にも前向きになりやすくなります。

小学校中学年〜高学年では、暗算や集中の持続がテーマになります。頭の中にそろばんを思い浮かべて処理する練習は、短い時間で情報を保持し、順番に操作する力を使います。文章題や図形、単位換算でも、情報を頭の中で整理する場面が増えるため、そろばんで培った「落ち着いて分解する力」が助けになります。

家庭でできる声かけは「速いね」より「見えてきたね」

そろばん学習では、つい「何秒でできた?」「何問正解した?」に目が向きます。もちろんスピードや正確さも励みになりますが、右脳学習の良さを活かすなら、家庭での声かけは少し変えてみるのがおすすめです。

  • 「今、頭の中で珠が動いた感じがした?」
  • 「どの位で迷った?」
  • 「さっきより落ち着いて見られたね」
  • 「間違いに自分で気づけたのがいいね」

こうした声かけは、結果だけでなく過程に目を向ける助けになります。子どもは「速くできないと意味がない」と感じるより、「考え方が育っている」と感じられた方が続けやすくなります。

そろばんばんが大切にしたいこと

そろばんばんでは、そろばんを「計算だけの習い事」としてではなく、子どもが数に自信を持つための土台づくりとして考えています。右脳を鍛えるという言葉も、子どもを急がせるためではなく、数をイメージし、集中し、自分の力で答えに近づく経験を増やすためのものです。

年中さんでも、小学校高学年でも、始める時期に遅すぎることはありません。大切なのは、その子の今の理解に合わせて、できることを一つずつ増やすことです。算数に苦手意識が出る前に、あるいは苦手だと感じ始めたタイミングで、そろばんを通じて「数って案外おもしろい」と思える時間をつくっていきましょう。

参考にした資料